一般に戸建て住宅の設計においては、住まい手自身がクライアントで直接対面して要望を聞けることが殆どで、それに対して直接設計者が自身の提案や考えを伝え、これを繰り返しコミュニケーションをとることで設計が進みます。この場合、設計者にとって住まい手はとても具体的な存在で住宅のプランから仕上げや造作、設備や照明も含めて細部まで打ち合わせを行うことが殆どです。
一方、集合住宅の設計においては、設計者は住まい手に会うことはなく想定を基に設計を進めます。住まい手を抽象化する、あるいは一般化してイメージし住み方を想像して間取りから細部まで設計をします。この抽象化・一般化する作業は極力個人的な趣向を排除して、出来るだけ客観性を高めて行うことが肝要で、設計内容としては多様な生活にフレキシブルに対応できるプラン、多様な趣味趣向を持つ住まい手の好みを邪魔しないシンプルなインテリアデザインであることが望まれます。
このように同じ住宅の設計でも住まい手の捉え方は全く異なり、その相違はそのまま建物に影響することになります。
賃貸併用住宅の設計においては、この両極化した住まい手、つまりこの上なく具体的な存在としての住まい手(=オーナー)と抽象化・一般化された住まい手(=入居者)の両方のための住宅を同時に設計することになります。
とは言え両者を全く別のものとして整理された状態で設計できるわけではありません。クライアントの要望はオーナー住戸だけではなく建物全体に渡ることが殆どで、賃貸住戸の住まい手の生活がオーナーの個人的な思いや考えで想定されることもありがちなので注意が必要です。